誰のための仕組みか
啓発の担当者
警察署の生活安全課、自治体の防犯担当など。手口が変わるたびに教材を作り直し、講話やイベントで配る人。
高齢の住民
スマホで詐欺の電話を受ける体験をして、「自分もだまされるかもしれない」と知り、切ってかけ直す行動を一度やってみる。
住民の家族
結果を共有したり、子ども向けのクイズや隊員証を持ち帰ったりして、家で合言葉の話をするきっかけにする。
どんな困りごとに応えるのか
特殊詐欺の被害は過去最悪の水準です。警察庁自身が、手口が「日々巧妙化」していること、自治体などで「広報啓発等の被害防止対策に係る負担が増加」していることを課題に挙げています。
出典:警察庁「特殊詐欺対策に係るAI活用(GENIAC-PRIZE)」協力文書
手口は月単位で変わりますが、チラシや講話の台本は、資料を読み、原稿を書き、確認して配るまでに時間がかかります。配ったあとに、どこまで伝わったかを確かめる手段もあまりありません。止まっているのは住民の知識よりも、教材を作り替える業務の速さだと考えています。
業務がどう変わるか
いま
- 新しい手口の発表や報道を読む
- チラシや講話の原稿を一から書く
- 確認・決裁、修正
- 印刷して配る
- 効果は分からないまま、次の手口へ
この仕組みで
- 発表や報道の文章を、編集室に貼る
- 国産AIが約40秒で体験の台本の下書きを作る
- 機械の検査を通し、担当者が読んで直す
- 試しに電話を受けてみてから、公開する
- QR を配る。集計で見逃されやすい点が分かり、台本と広報を直す
担当者がプログラムを書く場面はありません。作業時間は自動で記録し、従来のやり方と比べられます。
できること
詐欺電話の体験住民向け
非通知の着信に出ると、息子を名乗る男から電話がかかってきます。声でもボタンでも答えられ、2〜3分で終わります。最後に、どこに危険なサインがあったか、どう対処すればよかったかが分かります。
資料から台本を起こす担当者向け
警察の発表や報道の文章を貼るだけで、国産AIが台本の下書きを作ります。会話の吹き出しで読み、直したい台詞を押せばその場で直せます。「急かす台詞を増やす」のように頼めば、AIが段階ごと書き直します。
検査と公開担当者向け
行き止まりや出てこない危険サインがないかを機械が確かめ、公開のときにAI点検も行います。最後に担当者が内容を確認しないと公開できません。誰がいつ公開したかが残り、前の版にいつでも戻せます。
ポスターとイベント準備物担当者向け
啓発ポスターのほか、告知ポスター、体験ブース看板、合言葉カード、電話機ステッカー、子ども向けのクイズ台紙・隊員証・ぬりえ、寸劇の台本、運営の手引きまで、イベントの対象と手口に合わせて一式そろいます。
集計と効果の確かめ担当者向け
体験の前後で「自分もだまされうる」「何をすればよいか分かる」がどう変わったか、その場で留守番電話を設定した人がどれだけいたか、2週間後にも続いているかを測れます。個人を特定する情報は集めません。
住民の体験の流れ
だまされた場合は、受け取りの男が玄関に来ます。どの結末でも、最後に「これだけは覚えてください」と相談先(#9110)、そして留守番電話・国際電話の利用休止・警察庁が案内しているアプリの3つを示します。
リアルな会話体験のアプリとの違い
住民が本物そっくりのやり取りを体験することに力を注いだアプリとは、狙いが違います。競合ではなく、組み合わせて使えます。
| リアルな会話体験のアプリ | この仕組み | |
|---|---|---|
| 主役 | 体験する住民 | 教材を作り、配る担当者 |
| 価値の出どころ | やり取りの本物らしさ・没入感 | 新しい手口をその日のうちに教材にできる速さと、効果が分かること |
| AIの役割 | 犯人役として会話する | 資料から台本を起こし、直し、ポスターやイベント準備物の文案を書く |
| 体験の作り | 会話の自由度を高める | わざと短く簡単に。ボタンでも答えられる |
| 手口の増やし方 | 開発側が作り込む | 担当者がプログラムを書かずに追加・公開 |
| 測るもの | 体験の満足度など | 担当者の作業時間、住民の意識と行動の変化 |
組み合わせの例:会話体験のアプリをイベントの体験ブースの中心に置き、この仕組みで作ったポスター・クイズ・合言葉カード・アンケートで周りを固める。
安心して使うために
- AIは下書きまで。公開は人が決めます。担当者が内容を確認しないと、サーバ側で公開を止めます。
- AIで点検できない部分は、人が読みます。国産AIの安全機能は、詐欺の台詞を含む文章の点検を止めることがあります。止まった部分は一覧で示し、担当者が読んで確認するまで公開されません。
- 個人を特定する情報は集めません。名前・住所・電話番号・声の録音・話した言葉の記録は保存しません。アンケートは匿名の参加番号でつなぎます。
- 編集室は担当者ごとのアカウントで使います。AI機能には1日あたりの回数制限があり、誰が・いつ・何をしたかを記録します。
- 実在の会社名・口座番号・URL・電話番号は台本に入りません。入っていると機械の検査で止まります。
AIの使いどころと、国産への切り替え
文字を扱うAIは、すべて国産の基盤モデル「PLaMo」(株式会社Preferred Networks)です。国産以外が残っているのは音声まわりの3か所で、国産基盤モデル開発事業者リスト(2026年9月30日版・58者)には、切り替えの候補が複数載っています。どの場面も、AIがうまく動かなかったときは、キーワードによる判定や用意した文面に切り替わり、体験や作業は止まりません。
| 場面 | いま使っているもの | 国産へ切り替える候補 | 切り替える前に確かめること | |
|---|---|---|---|---|
| 体験中:住民の声を文字にする | ブラウザ内蔵の音声認識(Chrome なら Google、Safari なら Apple)。このアプリに届くのは文字だけ | 国産以外 | Shisa の音声認識(Shisa株式会社) Recho(株式会社Recho) |
Shisa は資料に「Qwen(海外のモデル)を土台にした声」とあり、国産の要件に当たるかを書面で確認。利用時間に比例する従量課金になり、サーバも通話中ずっと動く。高齢の方の声や方言で精度を比べる。利用規約が詐欺の台詞を扱う教材を禁じていないか。Recho は法人向けの問い合わせのみ |
| 体験中:住民の言葉を見分け、短く応じる | PLaMo | 国産 | — | — |
| 相手役の録音済みの声 | Google の音声合成(Gemini TTS)。オレオレ詐欺の148行中137行を、あらかじめ合成して配っている | 国産以外 | Sarashina2.2-TTS(SB Intuitions) KABURI-TTS(国立情報学研究所 LLM-jp) |
どちらも公開モデルで、申込なしで試せる(GPU が必要)。Sarashina は非商用ライセンスなので、懸賞への応募・県警との実証・一般公開が範囲内かを提供元に書面で確認。「Built with Sarashina」の表示が必要。声のもとにする録音は本人の同意を得たものに限る。KABURI は研究段階 |
| 録音のない台詞 | 端末の読み上げ機能(残りの11行と、担当者が新しく書いた台詞) | 国産以外 | 上の音声合成を、手口を公開するときにまとめて使う | 手口ごとに合成の手間がかかる(再生のたびではない)。即日公開を優先するなら、まず端末の読み上げで出し、あとから差し替える |
| 体験のあと:その人への「ひとこと」 | PLaMo | 国産 | — | — |
| 編集室:資料から台本を起こす・書き直す・言い換える・公開前に点検する | PLaMo | 国産 | — | PLaMo の安全機能が、詐欺の台詞を含む部分の点検を止めることがある。止まった部分は担当者が読んで確認してから公開する |
| 配布物:ポスターの文案、イベントの告知文・クイズ・寸劇 | PLaMo | 国産 | — | — |
| 参考:リアルタイムの音声対話 | この仕組みでは使っていない(先に作った多機能版は Gemini Live) | — | LLM-jp-Moshi(国立情報学研究所 LLM-jp) | 公開モデル。大きな GPU(24GB 以上)が必要。試作段階で、台本どおりに話を運ばせるのは難しい見込み。本番ではなく、比べて弱点を書く材料として試す |
どの候補でも共通して、次の2点を先に確かめます。
- GENIAC の国産基盤モデルの要件に当たるか。海外のモデルを土台に国内の事業者が追加学習したモデルや、国内の事業者を通して使うAPIの扱いを、事務局に確認する。
- 費用がどう変わるか。事前に作る声は配るだけなので、運用の費用は増えない。聞き取りを置き換えると、利用時間に比例する費用が新しく生じる。
候補の詳しい条件(申込先・費用・ライセンス・技術的な形)は、開発資料「音声を扱える国産AIの候補と使い始める条件」(2026年10月6日調査)にまとめています。
いまの状況
- 動くもの
- 体験・編集室・ポスター・イベント準備物・集計・実証用のアンケートと書式(同意書・体験後の説明・担当者への聞き取り票)が、手元の環境で動いています。
- まだのこと
- インターネットへの公開、住民と担当者による実際の利用と効果の測定はこれからです。
- これまでの経緯
- 先に作った多機能版で、協力いただいている県警から実際の手口の事例資料の提供を受け、署員の方に実機で触っていただいた講評を反映しました。この仕組みは、その経験をもとに「担当者が自分で回し続けられる」ことに絞って作り直したものです。
- 扱う手口
- いまはオレオレ詐欺(息子を名乗る電話)が中心です。ほかの手口は、担当者が編集室から追加できます。
この資料は、2026年10月時点の内容です。体験の台詞は実際の手口をもとにした作りもので、実在の人物・団体とは関係ありません。